ブログ

ご予約・お問い合わせはこちら

ブログBlog

ネット予約

リコーダーについて

日本の小学校では、音楽教育の一環として
ソプラノ・リコーダーを使用しているので、
演奏したことがないという方は
ほとんどいないと思います。
私の時代だと、ハーモニカピアニカとリコーダーは、
初めて触れる楽器の代表格でした。
値段も安く、手軽で、わりと簡単。
しかし、いずれの楽器も、年を経るとあまり縁がなくなります。
その中で、最も歴史があるリコーダーについて、
今回はお話ししたいと思います。

 

<リコーダーの歴史>

リコーダーは、リードを使わないエアリード(無簧)式の縦笛です。
「リコーダー」の名は「記録するもの」(recorder)の意で、
小鳥の声を模して演奏する習慣があったためだそう。

 

リコーダーのような構造をもつ管楽器は、
古くからヨーロッパ各地で演奏されていました。
14世紀には「リコーダー」という名称も使われるようになっています。
バロック期までは、一般的にリコーダーではなくフルートと呼ばれており、
現在のフルートの原型である横笛は、
フラウト・トラヴェルソと呼ばれていました。

 

バロック期前半の17世紀には、ソナタや協奏曲の独奏楽器として、
また管弦楽曲の伴奏楽器として使用されていました。
バロック期以前は、ソプラノ、アルト、テナー、
バスの4本による四重奏曲が好まれ、
数多くの作品が残されています。
バロック期では、特にアルト・リコーダーが代表的でした。
テレマンが自ら得意に演奏したことでも知られます。

 

しかし、音量が小さいこと、音の強弱がそのまま音高に影響し、
補正に高度の技能が必要なこと、
発音が容易であることの裏返しとして音色の表情を付けにくいこと
などから、バロック期後半の18世紀頃からは、
次第に表現力に優れたフラウト・トラヴェルソに主流の座を奪われ、
古典派(ハイドン、モーツァルトら)から後の音楽には、
全く顧みられなくなっていきました。

 

20世紀前半に、ロマン主義的な表現と決別した音楽家らによって、
バロック音楽やそれ以前の古楽作品の価値が見直されるようになります。

 

リコーダーも古楽復興とともに劇的な復活を遂げることになりますが、
その立役者がドルメッチ一族、
とくにアーノルド・ドルメッチ(1858〜1940)です。
彼は、自ら収集した古楽器を参考に、
ヴィオール、リュート、クラヴィコード、そしてリコーダーを復元。
当時の演奏スタイルで、
これらの復元楽器を演奏したことで有名になります。

 

ドルメッチとちょうど入れ替わるように出現した
デイヴィッド・マンロウ(1942〜76)。
彼は、古楽演奏の権威と呼ばれていた先生の部屋の壁にかけてあった
クルムホルンを見て一目惚れ。
その後、クルムホルンをはじめ、古管楽器の演奏法を独学でマスター。
のちにリコーダーコンソートを設立し、
王立音楽院ではリコーダー演奏を指導。
リコーダーのための前衛音楽まで書くなど活躍しますが、
1976年5月15日、33歳で逝去します。
しかし、彼の影響はきわめて大きく、
ジェイムズ・ボウマンやクリストファー・ホグウッドらに引き継がれます。

 

こうしてリコーダーはいったん忘れ去られましたが、
20世紀初頭になって、古楽復興運動の中で、
楽器が復元され、過去の演奏法が研究されました。
そして、古楽ブーム以来現在まで、使用される頻度も多くなっています。

 

<日本におけるリコーダー>

演奏者が、自らの口の形によって、
吹き込む空気の束を調整しなければならない横笛に対し、
空気の束が一定に保たれ、
演奏が比較的に容易である縦笛(リコーダー)
構造もシンプルで安価に量産できるため、
日本では教育楽器として多用されるようになりました。
音孔の開け方にはバロック式とジャーマン式の2種があります。
バロック式は古くからある正統の運指(指使い)で、
ジャーマン式は20世紀はじめ、ハ長調の指使いが少し容易になるように
ドイツで教育用に開発されたものです。
しかし、ジャーマン式はハ長調音階以外の音
(シャープやフラットつきの音)を
出すのが困難なのと、高音域を安定して発音できないため、
初心者に使われるだけで、他ではほとんど使われません。

 

<リコーダーの種類>

現在は主にF管C管で、
F管とは、F調(ヘ長調 ファソラシ♭ドレミファ)
C管とは、C調(ハ長調 ドレミファソラシド)

音域の高い方から、

⚪️ガークライン(クライネソプラニーノ
・リコーダー(C管) – ソプラノ・リコーダーより1オクターブ高い
⚪️ソプラニーノ・リコーダー(F管)
– アルト・リコーダーより1オクターブ高い
⚪️ソプラノ・リコーダー(ディスカント)(C管)
– テナー・リコーダーより1オクターブ高い
⚪️アルト・リコーダー(トレブル)(F管) – 最低音は中央ハの上のヘ音
⚪️テナー・リコーダー(テノール)(C管) – 最低音は中央ハ音
⚪️バス・リコーダー(F管) – アルト・リコーダーより1オクターブ低い
⚪️グレートバス・リコーダー(C管)
– テナー・リコーダーより1オクターブ低い
⚪️コントラバス・リコーダー(F管)
– バス・リコーダーより1オクターブ低い
⚪️サブ・コントラバス・リコーダー(C管)
– グレートバス・リコーダーより1オクターブ低い
⚪️サブ・サブ・コントラバス・リコーダー(F管)
– コントラバス・リコーダーより1オクターブ低い

 

<リコーダーを使った曲>

リコーダーが最初に栄えたのは、15〜16世紀のルネサンス時代。
オランダのヤコブ・ファン・エイク(1590頃〜1657)。
彼は生まれながらの盲人でしたが、
ユトレヒト大聖堂のカリヨン奏者であり、
またユトレヒト全域の釣鐘と時計チャイムの監督も務めていた人。
リコーダー演奏家としても秀でており、
彼の編み出したリコーダー調律法は現代でも使用されています。

 

そのエイクの曲を、ソプラノ・リコーダーとハープの演奏で。
☆笛の楽園 第1巻(1649)より
「Doen Daphne hed’over schoom Maegh
(ダフネが最も美しい乙女だった時) 」

素朴なテーマを掲げた変奏曲。
音の高低を生かした懐かしさを感じる主題と、
ソプラノ・リコーダーの特性を生かした変奏。
ハープの伴奏が、曲想にマッチしていて佳き。

 

ジャン=バティスト・ルイエ・ド・ガンやヘンデル、テレマン、
そしてバッハも、リコーダーの活躍する作品を残しています。
ヴィヴァルディも『リコーダー協奏曲』を7曲残しています。

 

ジャン・バプティスト・ルイエ(1688?~1720?)は、
バッハやヘンデルとほぼ同世代の
フランドル(フランス北端部からベルギー西部にかけての地方)
の作曲家です。
フランスのリヨンの大司教に仕えた音楽家でした。

☆Sonata Nº 1 in A minor for two recorders

曲集でも最も演奏頻度が高い曲。

・第1楽章 Adagio 4/4拍子
・第2楽章 Allegro 4/4拍子
・第3楽章 Adagio 3/2拍子
・第4楽章 Giga. Allegro 12/8拍子

特に3楽章のトリルの掛け合いが素敵。

前述したように、バロック期後期から古典派の時代になってからは、
ほとんど使用されなくなり、曲も作られなくなりました。

 

<ミカラ・ペトリ>

ミカラ・ペトリ(1958~)はデンマークのリコーダー奏者です。
彼女は3歳でリコーダーを始め、
1969年よりハノーファーの国立音楽演劇大学で
フェルディナンド・コンラードに師事。
ソリストとして多くの有名オーケストラと共演し、
34回のレコーディングを行っています。
1969年にソリストとしてデビューした彼女は、
リコーダーが最も重要な楽器としてみなされたバロック時代の作品から、
彼女のために書かれた現代の作品まで、
どれも超絶技巧と安定した音楽性で演奏し高い評価を受けています。
彼女はアーノルドや、ジェイコブス、
バークリーの作品の世界初演も手がけています。
夫であるリュート奏者ラルス・ハンニバルと共演し、
リコーダーとギターの組み合わせの面白さを世に問いました。
1995年にはデンマークのマルガレーテ女王から
ダンネブロー騎士勲章を授与され、
2000年にはデンマークのレオニー・ソニング音楽賞を受賞。
他にもドイツ・シャルプラッテン賞(1997年)など
多数の賞を獲得しています。


私がコンサートで最初に観たリコーダー奏者は、
ミカラ・ペトリでした。
招待されたコンサートだったので、
特に好きな演目があった訳でもなく、
ヴィヴァルディの「四季」をやるんだ〜くらいの感じで、
観に行きました。
その時の、リコーダー演奏が圧巻で、
こんなに小さな楽器で存在感のある演奏ができるんだ!
と感心した記憶があります。
10数年後にコンサートのパンフレットを見て、
その時のリコーダー奏者が、巨匠ミカラ・ペトリだったことに
後から気がつきます。

そんなペトリの魅力が詰まった動画です。

☆Michala Petri & Lars Hannibal: J.S. Bach – Dowland – Corelli

J.S.Bach
Sonata BWV.1033

John Dowland
»King of Denmark’s Galliard«
»Frog Galliard«
»I saw my lady weep«
»Flow my tears« mit Variationen von Jacob van Eyck
»Can she excuse my wrongs«

Arcangelo Corelli
»La Follia« Op. 5 No. 12

バッハの、作品BWV.1033は
フラウト・トラヴェルソのための曲となっていますが、
リコーダーで演奏されるこの曲は、乾いた音で、
歯切れが良い印象。
どこか可愛らしさも感じられます。

続いて、ダウランドの曲を5曲。
名曲「Flow my tears」を含む、至高の選曲。

最後にコレッリの「ラ・フォリア」
短調の物悲しさが、より際立つ演奏。

バッハのBWV.1033を、
フラウト・トラヴェルソとテオルボの演奏で。
同じ時代に使用された木管楽器トラヴェルソとリコーダー。
トラヴェルソは、楽器の径と息の吹き込み方の差もあって、
リコーダーより太くて素朴な音色。

☆ヘンデル:6つのリコーダー・ソナタ
リコーダー・ソナタ集 – HWV 360, 362, 365, 367a, 369, 377より、
Sonata in D Minor HWV 367

1 Largo
2 Vivace
3 Furioso
4 Adagio
5 Alla breve
6 Andante
7 A tempo di minuetto

Recorder, Michala Petri
viola da gamba, Hille Perl
harpsichord, Mahan Esfahani

このトリオは最強!
ペトリを支えるのは、
1984年生まれの新進気鋭のチェンバリスト:マハン・エスファハニ
そして、世界中のコンサートや録音に引っ張りだこの
ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者:ヒレ・パール


他の多くの曲と同じく、アン王女をはじめとする
ヘンデルの生徒たちのための
通奏低音の教材として書かれたものと推定されています。
7つの楽章がそれぞれに特徴があり、
変化に富んだ作品になっています。

 

ヘンデルと同時代のバッハの作品の中で、リコーダーを使った曲というと、
『ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047』、
『同第4番 ト長調 BWV1049』などの
合奏協奏曲がよく知られた存在ですが、
教会カンタータにリコーダーが使用された作品が20曲ほどあり、
また晩年の傑作『マタイ受難曲』にもリコーダーが登場します。

☆教会カンタータ『神の時こそいと良き時』BWV106

神の時こそいと良き時』(Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit)は、
バッハが、1707〜08年頃に作曲したと考えられている教会カンタータ。

ほぼ全編に2本のリコーダーが使用されています。

第1曲:ソナティーナ
ヴィオラ・ダ・ガンバと共に通奏低音を前奏として、
リコーダーが主導しています。
ユニゾンを基本としながら、
波動音型のパートでは別れて和音を成しています。
ソナタ形式で構成されています。

第3曲:アリオーソ(Ach, Herr, Lehre uns bedenken)
2本のリコーダーとテノールが、ヴィオラ・ダ・ガンバの通奏低音の
元に絡み合います。

☆Brandenburg’ Concerto No.4 in G major BWV1049

1.Allegro
2.Andante
3.Presto

1楽章の冒頭から、2本のリコーダーが活躍します。
バイオリンとリコーダーの掛け合いが楽しい。
2楽章の緩徐楽章では、リコーダーが主旋律を取って、
それを弦楽器が支えるという形。
3楽章のプレストでも、第1バイオリンとリコーダーは対等。
まさしくリコーダー無くしては成り立たない曲です。

「アントニオ・ヴィヴァルディ」の記事の中で、
ソプラニーノ・リコーダーの曲を取り上げました。

☆ソプラニーノ・リコーダー協奏曲ハ長調
Concerto for sopranino recorder in C Major, RV443

今回は、同じ曲を Lucie Horschのソプラニーノ・リコーダーで。

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

現在も、リコーダーの楽器としての魅力を伝えようとする手段を
色々な人が考えています。
Berliner Blockfl öten Orchesterは、
リコーダーのみで編成されたオーケストラ。

その演奏の中から、特に低音のリコーダーをフューチャーした曲を。


(バス・リコーダー)

☆Palladio (Karl Jenkins)

この曲は、カール・ジェンキンスの「パラディオ(Palladio)」。
サブ・コントラバス・リコーダーと、
コントラバス・リコーダーの重厚な音色で始まり、
徐々に、バス・リコーダー、テナー・リコーダー、
アルト・リコーダーと加わっていく。

元曲。

もう一曲。
ヴィヴァルディの四季から「春」。

☆Vivaldi Spring I. Allegro from The Four Seasons RV 269

特に、クライネ・ソプラニーノ・リコーダーと
ソプラニーノ・リコーダーが、鳥の囀りを表しているところが肝。


(コントラバス・リコーダー)

日本にも、リコーダーをフューチャーしたグループがあります。

栗コーダーカルテットは、1994年に結成された、
リコーダーとウクレレをメインとしたグループ。
劇伴や、CM などで曲が使用されています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/栗コーダーカルテット#BGM作品

その中でも、特に有名なのが、
「やる気のないダースベーダー」と称されるこの曲。

☆Imperial March (ダースベーダーのテーマ)

ダークで陰鬱な、悪の権化たるダースベーダーを象徴する音楽は、
圧倒的な強さと暗さがあってこそ!という概念を逆手に取った、
拍子抜けするほど気の抜けた演奏。
その主役がソプラノ・リコーダー。

他にも、ピタゴラスイッチのオープニングテーマなどがあリます。

ドラマ「凪のお暇」の劇伴を担当した「パスカルズ」は、
ロケット・マツ率いる、ピアニカ、トイピアノ、バイオリン、
チェロ、トランペット、ウクレレ、ギター、 バンジョー、
ドラムス、パーカッション、リコーダー、ノコギリ、 おもちゃ、
など、独特の開放感を持つサウンドを奏でる
14 人編成のアコースティック・オーケストラ。

https://pascals.thebase.in/about

☆PASCALS(パスカルズ) – 凪のお暇 メインテーマ

こちらもまた、使用する楽器でチープな感じを前面に出して、
ドラマの緊迫した場面や雰囲気を緩衝する役割を担っています。
NHKで現在放映されているドラマ「ひとりでしにたい」の劇伴も
パスカルズが担っています。

このように、簡単で古い楽器のイメージだったリコーダーは、
時代と共に一旦廃れたあと、復活し、
さまざまな局面で使われるようになっています。

そのシンプルで独特な音を、
日常の生活の中で聴く機会があるかもしれません。
小学校時代に出したその音を、ぜひ探してみてください♪

過去に行ったリコーダー演奏のコンサート

☆1995年9月23日@サントリーホール
ミカラ・ペトリ(リコーダー)、スロヴァキア室内合奏団
ヴィヴァルディ:ソプラニーノ・リコーダー協奏曲ハ長調 RV443

☆2018年3月15日@東京文化会館小ホール
古典音楽協会
ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲「ごしきひわ」ニ長調 Op.10-3 RV428

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

グレン・グールド

グレン・グールドというピアニストを知っていますか?

 

私のようなクラシックオタク(略してクラオタ)なら、
円盤式レコードという録音媒体が1887年に出来てから、
現在までの、主だった演奏家はある程度知っています。

 

しかし、クラシックを聴かない人にまで
知られている演奏家や指揮は、それほどいません。

 

そんな中で、グールドはピアニストとしては
おそらく一番有名な人物でしょう。

 

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/グレン・グールド#グールドの功績

 

カナダ出身のピアニスト グレン・グールド(1932-82)は、
デビューからあり得ないくらいの人気で、
いまでこそクラシックの垣根を超えて広く愛される伝説の人ですが、
生前はクラシック界きっての異端児扱いでした。

 

グールドは、声楽家であった母親からピアノの手解きを受け、
1940年にカナダの王立音楽院に合格。
音楽理論、ピアノ、オルガンを習い、
1945年にベートーヴェンの『ピアノ協奏曲第4番』でデビュー。

 

コロンビアとの専属契約をしたのち1955年に録音されたアルバム、
ヨハン・ゼバスティアン・バッハの『ゴルトベルク変奏曲』によって
彼は世に知られるようになりました。
『ゴルトベルク変奏曲』は、当時ピアノの
レパートリーとしてみなされておらず、
プロデューサーは、その選曲に反対していました。
ところが、レコードは飛ぶように売れました。

 

端正な風貌と、夏でもお気に入りのコートとマフラー、手袋をし、
ミネラルウォーターしか飲まない、
決まったビスケットと抗生物質やビタミン剤などの
サプリメントしか口に入れない、
異常なまでの潔癖症、
などの極端に偏った行動が、人気に拍車をかけました。

 

 

彼は、「ピアノは背筋を伸ばして弾くものだ」という常識をひっくり返し、
ピアノの椅子は極端に低く、
椅子の脚を切り落としたものを使っていました。

 

演奏中にハミングする、自分の演奏の指揮を左手でする、
バッハやベートーヴェンの譜面も書き換えてしまう、
そんな型破りな人物で、
曲に対するアプローチも、
いわゆるクラシックの定型とはかけ離れていました。
極端な強弱、独特の奏法、繰り返しの指示は無視、
録音テイクを重ね気に入った部分を切り張りする手法・・・
個性的過ぎる稀有な演奏家です。

 

 

〈グレン・グールド略歴〉
1939年1月:カナダ・トロントに生まれる。
幼少時から音楽に天賦の才を発揮する。
1950年12月:カナダCBCネットワークの
ラジオリサイタルでラジオ初出演。
1955年1月:ワシントンのフィリップス・ギャラリーでアメリカ初公演。
1955年6月:ニューヨークのCBSスタジオにて
『ゴルトベルク変奏曲』を録音。
1956年1月:『ゴルトベルク変奏曲』発売。ベストセラーに。
1959年8月:ザルツブルク音楽祭出演。
1964年3月:シカゴ・オーケストラホールにてリサイタル。
最後の公開演奏。
1981年5月:55年と同じスタジオで『ゴルトベルク変奏曲』を再録。
1982年10月:脳卒中で死去。享年50歳。

 

 

<グールドのピアノ>
グールドは終生、自分に合ったピアノを探し求めていました。
彼は、自分の弾き方や鍵盤の戻りなどにこだわりがあり、
気に入ったピアノしか弾きませんでした。
1955年の『ゴルトベルク変奏曲』で使用したスタインウェイは、
輸送中の事故で使えなくなりました。
その後、様々なピアノを試奏しますが、
なかなか納得がいかず、
トロントの百貨店の上にあるホールに眠っていた
第二次世界大戦以前のピアノが彼の目にとまります。
スタインウェイ側も、グールドの要求に耐えかねていて、
本来は使用済みのこのピアノを貸与しました。
スタインウェイCD318、彼は膨大な録音の大半を、
このピアノで行っています。

 

また、グールドはデビュー後も、ピアノに
チェンバロの感触、音を求め、
楽器に改造をしました。
ピアノのハンマーからフェルトを取り去り、
代わりに金属板をつけて弦を叩くという、
「自分がハープシコード(チェンバロ)だと思い込んでいるピアノ」
通称ハープシピアノです。

 

20代は世界各地へ演奏旅行に赴き、錚々たる指揮者たちとも
共演して名声を築きます。
しかし、かねてから演奏の「一回性」(再現性が無いこと)に疑問を呈し、
演奏者と聴衆の平等な関係に志向して、
演奏会からの引退を宣言していたグールドは、
1964年4月のリサイタルを最後に演奏会活動から手を引いています。
それ以降は、没年までレコード録音及びラジオ、
テレビなどの放送媒体のみを音楽活動としていくのです。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

私がグールドの存在を初めて知ったのは、
映画『羊たちの沈黙』(1990)でレクター博士が獄中で、
FBI捜査官に情報の見返りとして依頼する
グレン・グールドの録音テープでした。
そこに収録されていたのは、81年版の『ゴルトベルク変奏曲』。
(原作のレクター博士の人物設定では1955年版が愛聴盤で、
許諾の関係でテーマとして使用されたのは1981年版)

 

同じ録音のCDを購入し、何度も繰り返し聴きました。
当初グールドの様々な逸話を知らなかったので、
演奏中に聞こえてくる彼のハミングを
心霊現象だと勘違いしました。

 

<グールドが演奏した作曲家>
グールドは、一般的なクラシックのピアニストとは
一風異なるレパートリーの持ち主でした。
バッハに対する傾倒ぶりは、その録音数の多さや、著作物からも伺えます。
彼の興味の対象は、フーガなどのポリフォニーにありました。
バッハは、当時もはや主流ではなかった
ポリフォニーを生涯追求しましたが、
グールドは、その芸術至上主義的な姿勢に共感していました。

 

モーツァルトのソナタは、「苦痛な作業」と言いながらも
全曲録音を行っています。
彼はモーツァルトの装飾性を軽蔑していたため、
装飾記号を無視しています。
ベートーヴェンのソナタは、曲によって賛否両論を唱え、
ロマン派の作曲家には好悪が入り混じっていました。
特に、多くのピアニストが敬愛するショパンとリストには否定的で、
録音はショパンの『ピアノソナタ第3番』が残っているだけです。
そんな中では、ブラームスの録音数が際立っていますが、
その演奏については好き嫌いが分かれるところです。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

☆Bach : Goldberg Variations June 1964

 

1964年CBCで録画された『ゴルトベルク変奏曲』の抜粋版。
まだ鍵盤と顔の位置が遠く、ハミングも控えめ。
体を大きく動かして、ペダルを極力抑え、指はあまり上げず、
鍵盤間を這うような弾き方(ノンレガート奏法)はこの頃から。
バッハの作品の構成や構造の中にある
音色美や芸術性を追求した結果であったのでしょう。

 

レガートとは
音楽用語の一つで、音の間を切れ目なく、なめらかに演奏すること。

 

ノンレガート奏法とは
各音の間をわずかに区切って演奏する奏法。
個々の音が独立して聴こえるようにする、
スタッカートほどには切らないのが特徴。

 

☆Glenn Gould – Off the Record 1959

 

「グレン・グールド:27歳の記憶」
カナダ トロント北部の湖畔にあるグールドの自宅での練習風景、
演奏に使うピアノの選択、CBCでの録音の模様が記録されています。
インタビューでは、彼の演奏に対してのこだわり、
録音に対する執着が伺えて、非常に興味深い動画です。

 

☆Bach : Fugue in E Major from The Well Tempered Clavier Book 2 – BWV 878

 

『BWV878 前奏曲とフーガ』のフーガ。
非常にゆったりとしたテンポで演奏される。
お得意の左手の指揮。
細かい強弱を付け、
立体的な音の構築を見事にしています。

 

元々バッハの時代の鍵盤楽器では、
音の強弱や長短をつけることがほぼ出来なかったので、
バッハに限らず、バロック期の曲をピアノで演奏するに当たって、
曲中のアーティキュレーション
(音と音のつながりに様々な強弱や長さの変化をつけること)は、
演奏者の解釈によることとなります。
グールドは、独自のアプローチで、
バッハの作品を新たな境地に到達させました。

 

同じBWV 878をアンドラーシュ・シフの演奏で。
シフは、現代のピアニストの中でバッハ演奏の第一人者です。
2014年にイギリス女王からナイトの爵位を与えられています。

 

 

4:23〜フーガです。
前半は静かに流れるように、
緻密な構造物を正確に作り上げていくように弾かれていきます。
後半少しずつ音を強くしてピークが来るようにしています。
強弱の振れ幅も極力少なく、侘び寂びを感じるような好演。
グールドの演奏に比べて、
滑らかで、一音一音を独立させるような弾き方ではありません。
歌い上げるグールドのそれとは違って、
流麗で美しく語りかけるような演奏。

 

☆Bach : ブランデンブルグ協奏曲第5番

 

バッハによるこの作品は、最初の鍵盤楽器協奏曲と言われています。
この演奏は、クレジットにもあるように
前述のハープシピアノで行われています。
9:48あたりからのカデンツァで、
その音色がピアノとは異なることがわかるでしょう。

 

☆Bach : Piano Concerto No. 7 in G minor

 

珍しいカラー映像での動画。
1967年11月15日収録。
ピアノはスタインウェイ。
グールドにしては、割りとオーソドックスな演奏。
録画当時のバッハの曲解釈では、メリハリをつける事が普通だったので、
オケが重すぎて過剰に感じられます。

 

☆Scarlatti : 3 Sonatas, K. 430, 9 & 13

 

スカルラティのソナタ3曲は
未完のイタリアン・アルバム」に収録されています。

 

チェンバロを意識した装飾音。
本来はないはずの強弱を、独特の解釈で付けています。
特に、Sonata in D Minor, K.9 は、
スカルラティの作曲家としての価値を高めた
歴史的名演といって良いでしょう。

 

 

 

☆Beethoven : Piano Sonata No 30 in E Major

 

1964年の録画。
イントロでグールドが語っていますが、
そこは飛ばして6:45からの演奏を聴きましょう。
第1楽章、第2楽章ともグールドにしては常識に適った演奏。
全曲の重心のほとんどは第3楽章に置かれていて、
主題と6つの変奏曲形式になっています。
特に第4変奏は、バッハを意識した
2声から4声の声部が対位法を用いてまとめられていく、
温かみのある変奏。
第6変奏では、4分音符で始まったリズムの刻みは8分音符、
3連符の8分音符、16分音符、32分音符と細かくなっていき、
最後は、主題がそのまま回想されて終わる。
主題が最終変奏で回収されるという変奏曲であるという特徴から、
この楽章は、バッハの『ゴルトベルク変奏曲』との類似性を
指摘されています。

 

☆Bach : French Overture BWV 831

 

バッハのフランス風序曲は、
数あるバッハの作品の中でも私が最も好きな曲
そのきっかけになったのが、この録音。
1969年3月13日にトロントで収録。
出だしから7分にも及ぶ序曲が全体を支配します。
2楽章からは、軽快で優雅な音楽になっており、
フランス的な軽妙なギャラント様式が盛りこまれています。
最終楽章のエコーは、早いテンポで
強弱が付けられて演奏されています。

 

☆Bach : Partita No. 2 in C minor, BWV826

 

グールドのバッハの中でも『ゴルトベルク変奏曲』に匹敵する
名演として名高いパルティータ全曲。
そのヴィヴィッドな演奏は、いまだに少しも色あせず
新鮮さを保っているばかりでなく、
さらなる刺激を与え続けています。
音の粒立ちが良く、全体的にメリハリが付いた、鮮やかな演奏です。
私の「バッハ:パルティータ集」の基準もグールドの演奏です。

 

 

☆Bach : Goldberg Variations 1981

 

彼が1982年に亡くなる直前の録画でした。
晩年の演奏とはいえ、グールドならではのメリハリをつけた
色鮮やかな好演。
没頭して演奏している姿を見ると、
まさしくバッハに成り代わったかのよう。
全体を見てみると、特に第15変奏と
第25変奏が際立って遅いテンポで演奏されています。
そして、次の第16変奏は、折り返し地点。
後半の開幕を告げるような、歌い上げるような演奏。
第26変奏は、終盤への序奏。
ここから、グールドのテンションはさらにギアがあがっていきます。
そして、第30変奏で、マックスに。
最後のアリアは、最初のアリアよりもゆったりと。
弾き終えた後にうな垂れるグールド。
アリアと30の変奏という長い旅の終着点にたどり着いた、
そのような感慨もあるのでしょうが、
グールド自身が、人生の終末にいるということを判っていたかのような
達成感のある演奏だと思います。

 

『 晩年は愈々孤高ともいうべき自らの世界に閉じこもって、
自分だけの世界をレコードという型で
作ろうとするようになったのは周知の通りである。
その晩年に録音された『ゴルトベルク変奏曲』が高い評価を
受けているのは、彼の内部に結実していった
鋭利な音楽性の到達した終着点ともいうことが出来よう。
朝比奈隆 』

 

『 芸術の目的は、瞬間的なアドレナリンの解放ではなく、
むしろ、驚嘆と静寂の精神状態を生涯かけて構築することにある。
グレン・グールド 』

 

前述したようにグールドが新たにもたらした事柄は、
枚挙に暇がありません。
・クラシック音楽の常識の破壊
・独奏者とオーケストラや指揮者との関係性
・バッハの曲に対する新しいアプローチ
・左手と右手の絶妙なバランス
・録音に対する執念
・演奏するときの姿勢のこだわり
・曲の解釈に対する独自性

 

グールド前グールド後

 

彼の登場以前には、タブーとされていたことが、
「あり」なのだと世に示されたとたん、
彼が取り上げた曲が、ピアニストのレパートリーに加わり、
バッハの奏法や曲の評価までも変えてしまった。
今でも、グールドに影響を受けたであろう演奏や録音が
散見されます。

 

一つの価値観となったグールドの斬新な演奏。
亡くなって40年以上経ちますが、
今でも人気は根強く、録音・映像・著作の紹介や学術研究が続いています。

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

ヘンデル その2

こんにちは。院長の波木です。

 

前回は、ヘンデルのオペラとオラトリオの作品を紹介しました。
今回は、管弦楽曲と器楽曲を聴いてみましょう。

 

水上の音楽
1717年に創作した「水上の音楽」は、
テムズ川を舞台にした王室の船上パーティーで
演奏されたと言われる22曲からなる壮大な組曲。

 

この作品はジョージ1世の依頼により生まれ、
その中でも「アラ・ホーンパイプ」が特に親しまれています。
この楽章は川の上での舟遊びの躍動感と
楽しさを生き生きとしたリズムと鮮やかなメロディで表現している。
ヘンデルは水の流れや自然の美しさを音楽で描き出し、
聴く者をその場にいるかのような感覚にさせる。

 

この組曲は、弦楽器やオーボエ、ホルン、トランペット、
フルート、リコーダーといった豊富な管弦楽編成を駆使し、
フランス風の序曲と軽快な舞曲で構成されている。
特にオーボエとホルンをフィーチャーした第1組曲、
トランペットが輝く第2組曲、
そしてフルートとリコーダーが中心の第3組曲は、
それぞれが異なる楽器の魅力を引き出し、
多彩な音楽的表現を楽しむことができる。

 

初演時、50人にも及ぶオーケストラが船上で演奏を行い、
夜明けから日の出までの演奏は大成功を収めたこの曲は、
国王からはアンコールの要請もあった。
この時の演奏者たちには当時としては
高額な報酬が支払われたと伝えられており、
その華やかさと演奏の質の高さが伝わってくる。

 

 

☆〈Water Music〉Suite No.1 in Fmajor, HWV348
Ouvertüre (Largo – Allegro) – Adagio e staccato

典型的なフランス風の序曲。
ゆったりとした出だしから、アレグロではヴァイオリンのソロから始まる。
オーボエと弦楽器の掛け合いはイタリア様式を感じさせる。
オーボエがソロを取るアダージョは実に優美。

 

 

☆〈Water Music〉Suite No.2 in D major, HWV349
Alla Hornpipe

全曲の中で最も紹介される機会の多い曲。
「ホーンパイプ」は3/2拍子の英国のフォークダンス。
「アラ」は「〜風」なので、「ホーンパイプ風」ということ。
トランペットとホルンで華やかで 洗練された雰囲気を醸し出します。

 

第1組曲から第3組曲までの全曲。

 

古楽器編成なので、ピッチは低く設定されている。
この演奏では、ナチュラルトランペットと
ナチュラルホルンが使用されている。
それらは、バルブを持たない単純な構造になっていて、
高度な演奏技術が求められる。

 

 

王宮の花火の音楽
☆<Music for the Royal Fireworks >HWV351
1748年に作曲された。
オーストリア継承戦争終結のために開かれた
アーヘンの和議を祝う祝典のための管弦楽組曲。
この作品はアンハルト=ツェルプスト公アドルフ・フリードリヒの
王女とフリードリヒ大王の弟、
カンバーランド公ウィリアム・オーガスタスの結婚を祝うため、
ロンドンのグリニッジ公園で開催された
豪華な花火大会のクライマックスに委嘱された。

 

この組曲の序曲は力強く、
ダイナミックなリズムと華やかなオーケストレーションが特徴で、
その壮大な開幕は聴く者に強烈な印象を与える。
ヘンデルはこの作品を通じて
王室イベントの雰囲気を見事に音楽で捉え、
彼の作品が後世に残る大きな影響を与えた。
初演は野外で行われた。

 

 

この組曲は,花火が打ち上げられる前に演奏される序曲と,
花火の合間に演奏されるいくつかの小品からできている。

 

1 – Ouverture: Adagio, Allegro, Lentement, Allegro
2 – Bourrée
3 – La Paix: Largo alla siciliana
4 – La Réjouissance: Allegro
5 – Menuets I and II

 

フランス風の序曲から盛大に始まる。
華やかな金管とリズミカルなティンパニ。
メリハリの効いた明快な曲調。
これから始まるイベントの高揚感を表す素晴らしい序章。
舞曲の後、歓喜(La réjouissance)で最高潮に達し、
メヌエットIIで締めくくる。

 

古楽器編成の動画をもう一つ。

 

先ほどの動画に比べて全体にゆったりと余裕のある演奏。

 

 

戴冠式アンセム
☆Coronation Anthems: Zadok the Priest HWV258

 

1727年ジョージ2世の戴冠式のために作曲されたのがこの曲。
1. 『司祭ザドク』HWV258
2. 『汝の御手は強くあれ』HWV259
3. 『主よ、王はあなたの力に喜びたり』HWV260
4. 『わが心は麗しい言葉にあふれ』HWV261
4曲全てが奏されることは少ないが、
『司祭ザドク』はイギリスの戴冠式では必ず演奏される。

 

静かな出だしから突然始まる合唱は壮大で圧倒的。
王の神聖性と民衆の祝福を力強く表現している。
UEFAチャンピオンズリーグのテーマ曲として使用されているのは、
ブリテンによるトランペットのファンファーレなどを加えた
アレンジ版である。

 

 

オルガン協奏曲<かっこうとナイチンゲール>
☆Concerto for organ and orchestra in F major
“The Cuckoo and the Nightingale”

 

1. Larghetto
2. Allegro
3. Organo ad libitum
4. Larghetto
5. Allegro

 

ヘンデルのオルガン協奏曲で最も有名な曲。
1楽章のラルゲットは、穏やかであるものの、
慈愛に満ち溢れた素晴らしい楽章。
2楽章のアレグロは、某格付けチェックの番組で使用されている。
軽妙で愛らしい曲。
かっこうとナイチンゲール(夜鳴きウグイス)の
鳴き声の掛け合いを表している。

 

 

ハープ協奏曲変ロ長調HWV294a
☆Harp Concerto in B-flat Major

 

1763年に初演された世界最初のハープ協奏曲
第1楽章の冒頭は親しみやすい旋律でよく知られ、
CMや番組のBGMとしてたびたび使用される。
ハープの澄んだ音色を生かした曲調とアンサンブル。

 

 

同じ曲のオルガン版。
☆Organ Concerto in B-flat Major op.4 No.6

 

とくに第2楽章のラルゲットは伸びやかな音のオルガン向きに感じられる。

 

ハープシコード組曲第1集第5番ホ長調 HWV.430
☆Harpsichord Suite HWV430 in E major

 

ハープシコード組曲第1集(出版1720年)8曲中の第5曲。
1. Praeludium
2. Allemande
3. Courante
4. Air with 5variations〜通称「調子の良い鍛冶屋」

 

「エアと変奏曲」の楽章がいわゆる「調子の良い鍛冶屋」
いわれについては諸説あるが、鍛冶屋とは関係がない。
ヴァリエーションが進むに従い、8分音符から16分音符、
3連符、32分音符と徐々に細かくなっていき、
テンションはあがっていく。

 

ピエール・アンタイによる全曲のチェンバロ演奏で。
溌剌としていて、チェンバロの歯切れの良い音が合っている。
「エアと変奏曲」では、ゆったりと始まり、徐々にテンポを速くしている。

 

ピアノでもよく演奏されている。
ラフマニノフによる「エアと変奏曲」の演奏。

 

強弱のつけ方と内声の響かせ方はさすが。
緩急の付け方はアンタイ以上。
特に32分音符の最終変奏は圧巻!

 

 

ハープシコード組曲第2集第4番ニ短調 HWV437より
「サラバンドと2つの変奏」
☆Harpsichord Suite HWV437 in D minor〜Sarabande

 

ゆったりとした印象的な主題。
その後に2つの変奏が続く。
このサラバンドは映画「バリー・リンドン」に使用されている。

 

Olivier Baumontによるチェンバロで。
1. Prelude
2. Allemande
3. Courante
4. Sarabande
5. Gigue

 

映画「風の谷のナウシカ」から久石譲作曲
「風の伝説」「ナウシカ・レクイエム」
今をときめく「かてぃん」こと角野隼斗による演奏で。
2:26 あたりからヘンデルのサラバンドを引用。

 

 

ハープシコード組曲第2集第1番変ロ長調 HWV434より
「メヌエット」
☆Harpsichord Suite HWV434 in G minor〜Menuetto

 

ケンプによる編曲版。
物悲しくもあり、慈しむような、心に滲み入る曲調。
この曲の演奏を初めて聴いたのは、
アンヌ・ケフェレックの佐倉でのコンサート。
それ以来、ラ・フォルジュルネで彼女の演奏で3回ほど聴いている。

 

András Schiffによるピアノで。
1. Prelude
2. Sonata
3. Aria and Variations
4. Menuetto

 

この曲の第3楽章「アリアと変奏」は、
ブラームスが1861年に作曲した
「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」
テーマとして使われている。
この曲は、変奏曲の大家であるブラームスが、
音楽的内容の頂点をきわめた作品。
バッハ「ゴルトベルグ変奏曲」、ベートーヴェン「ディアベリ変奏曲」
シューマン「交響的練習曲」と並んで、
音楽史上の変奏曲の歴史を飾る曲である。

 

カッチェンの演奏で。

 

2回にわたりヘンデルの名曲を紹介しました。
彼の作品を全て聞くのは困難ですが、
このほかにも佳作が多く、
「6つの合奏協奏曲集作品3」
「12の合奏協奏曲集作品6」など
通して聴いてみるのも面白いでしょう。

 

 

【医院からのお知らせ】
クリニックの看板と外装をリニューアルしました。

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

ヘンデル その1

こんにちは。院長の波木です。

 

バロック時代の巨匠ヘンデルの名前や彼の曲を知っている、
あるいは聞いたことがあるという方は多いと思います。

 

また、知らず知らずのうちに聴いていた曲が
ヘンデルの作品であったということもあるでしょう。

 

今回は、バッハと同じ1685年に、
同じドイツで生まれたヘンデルについて、
お話ししたいと思います。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
(George Frideric Handel 1685-1759)
作曲家、オルガニスト

 

 

1685年ドイツ・ザクセン地方のハレに生まれる。
ヘンデルは幼少時から非凡な音楽の才能を示していたが、
父は息子が音楽の道へ進むことには反対していた。
隠れてクラヴィコードを練習し、才能を見せるようになる。
聖母マリア教会のオルガニストだったツァハウ(1663-1712)に、
オルガン、チェンバロ、ヴァイオリンを習ううちに師を凌ぐようになる。

 

「隠れて練習するヘンデル」

 

ハレ大学に入学、法律を学ぶ予定が音楽への興味が勝り、
大学を辞め、ドイツでもオペラが盛んであったハンブルグへ移る。
ゲンゼマルクト劇場でヴァイオリン奏者として採用され、
その後チェンバロの通奏低音奏者や演奏監督として活躍するなど、
実地の経験を積みながらその影響を受けた。
1704年当時のハンブルク・オペラの中心的な作曲家カイザーに代わって
ヘンデルがオペラを作曲することとなった。
ヘンデルにとって最初のオペラ「アルミーラ」は大成功を収めた。

 

その評判を聞いたトスカーナ大公子フェルディナント(メディチ家)から
誘いを受け、1706年から1710年までイタリア各地を巡った。
ローマではオペラの上演が禁止されていたため、
ヘンデルはオラトリオを作曲している。
フィレンツェで最初のイタリア・オペラ「ロドリーゴ」が上演された。
1708年にはオラトリオ「復活」が上演され、
ヴェネツィアで上演されたオペラ「アグリッピーナ」は大成功を収めた。
外国人の作品がこれほど成功するのは異例であったが、
周辺国の侵攻や経済的没落により
斜陽を迎えていたイタリアに留まる理由はなかった。

 

1712年にロンドンへ移住すると、イギリスの音楽シーンで活躍し、
「水上の音楽」を発表。
貴族たちによってオペラ運営会社「王室音楽アカデミー」
中心的人物となった。
1723年に王室礼拝堂作曲家に任じられていたヘンデルは
1727年にはイギリスに帰化する
ロンドンでの初期の活動はオペラ作品が主であったが、
次第にオペラ熱も冷めていき、
後期にはオラトリオが中心となった。

 

現在も知られているヘンデルの曲の多くは、
1739年以降に作曲されている。
1740年合奏協奏曲集「作品6」を出版。
1742年初演の「メサイア」は大好評であった。
1749年「王宮の花火の音楽」を発表。
1751年左眼の視力の衰え、やがて右眼の視力も弱り、失明。
1759年体調の悪化により74歳で死去。

 

ひっそりと埋葬されることを望んだ本人の願いにもかかわらず
3000人もの民衆が別れを惜しむために押し寄せ、
無数の追悼文が新聞や雑誌を賑わせた。
のちに伝記が記されるなど、
作曲家としては異例の扱いを受けた。
ヘンデルは生前から高く評価され、没後すぐに神格化された。
当時としては初めての試みである作品集が死後出版され
多くの合唱団にその音楽が受け継がれたこともあり、
ヘンデルは名声が没後も衰えなかった最初の作曲家となった。

 

バッハが教会音楽を中心に内省的で重厚な作風であったのに対し、
ヘンデルはエンターテインメントとしての音楽を
いかに作っていくかということを常に考えていた作曲家であった。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

今回取り上げるのは、オペラとオラトリオ。

 

オペラ
舞台上で衣装を着けた出演者が演技を行う点で
演劇と共通しているが、セリフだけではなく、
大半の部分(特に役柄の感情表現)が歌手による歌唱で
進められることを特徴とする。

 

オラトリオ
元は宗教曲で、聖書などから取った台詞を多用し、
オペラと同様の音楽形式で進められるが、
舞台装置やセリフ、衣装、大道具などはなく、
声楽とオーケストラで演奏される。

 

最初に紹介するのは、誰もが知っているこの曲。
しかし、大半の人がヘンデルが作曲したということを知らない。

 

☆オラトリオ「ユダス・マカべウス」HWV.63より
「見よ勇者は帰る」(1746年)「Judas Maccabaeus」HWV63,
Part3-58 ’See, the Conqu’ring Hero Comes’

 

 

オラトリオ「ユダス・マカべウス」の第3部に登場するコーラスで、
戦争で活躍した公爵の帰還にあわせて書かれた作品。
英雄ユダの凱旋を民衆が歓喜とともに迎える場面を表現している。

 

世界各地で大会の優勝者を称える曲
表彰状授与のBGMとして定着している。

 

 

☆オラトリオ「メサイア」HWV.56 より「ハレルヤ・コーラス」(1741年)
「MESSIAH」HWV56 / Part2 ‘Hallelujah!’ Chorus

 

オラトリオ「メサイア」は、バッハの「マタイ受難曲」と並ぶ
宗教曲の傑作として、世界中の音楽愛好家から高い評価を受けている。

 

 

「ハレルヤ・コーラス」は名実ともにヘンデルの作品で最も有名な曲
シンプルな旋律だが、荘厳で美しい。
キリストの復活と最後の審判を讃える力強い合唱で構成されている。

 

 

☆オペラ「リナルド」HWV.7a より「私を泣かせてください」(1711年)
「Rinaldo」HWV7a ’Lascia ch’io pianga’

 

このアリアのオリジナルの旋律は、
オペラ「アルミーラ」でサラバンドとして作られた。
その6年後「リナルド」のアルミレーナのアリアとして
再使用されたのがこの曲。

 

 

ストーリー:
十字軍騎士リナルドには、総司令官の娘アルミレーナという許嫁がいた。
ところがエルサレム征服まであと少しというところで、
魔女アルミーダにアルミレーナが誘拐され、
敵軍の王アルガンテに求愛されるが、
愛するリナルドへの貞節を守るため
「苛酷な運命に涙を流しましょう」と歌うアリア。

 

歌詞:
「どうか泣くのをお許しください
この過酷な運命にどうか自由にあこがれることをお許しください
わが悲しみは、打ち続く受難に鎖されたまま
憐れみさえも受けられないのであれば」

 

歌詞の内容は、悲しみを表すものだが、
天上を想起させるような儚くも美しい調べになっている。
たびたびドラマの挿入歌などに使われている。

 

 

☆オペラ「セルセ」より「オンブラ・マイ・フ」(1738年)
「Serse, Xerxes」HWV40, Act I ’Ombra mai fu’

 

 

ヘンデルは没後も名声が落ちなかったが、
レパートリーに残ったのはごく一部の作品だけだった。
オペラ作品についてはほとんどが忘却され、
「セルセ」もその例外ではなかったが、
「オンブラ・マイ・フ」だけが 19 世紀に「ヘンデルのラルゴ」の名で
愛唱されるようになった。
1906 年ラジオの試験放送で
「世界で初めて電波に乗せて放送された音楽」でもある。

 

このアリアはオペラ「セルセ」の第1幕冒頭で歌われるもので、
ペルシアの王「セルセ」が
プラタノの木陰に向かって歌う場面で知られている。
歌詞は木陰の美しさと涼しさを讃えるもので、
セルセの愛情を表現するために使われている。

 

歌詞:
かつて、これほどまでに
愛しく、優しく、
心地の良い木々の陰はなかった

 

下降と上昇を組み合わせた美しく伸び伸びとした旋律を、
優雅な伴奏が支える。

 

 

☆オラトリオ「ソロモン」HWV.67より
「シバの女王の入城」(1748年)「Solomon」HWV67,Part3
’The Meeting of King Solomon and the Queen of Sheba ‘

 

「シバの女王のソロモン王への訪問」

 

第3幕にふたつのオーボエと弦楽器による
短く生き生きとした曲想で知られるシンフォニア。
その部分だけが有名になり、しばしば結婚式で演奏されるほか、
ロンドンオリンピックの開会式で演奏された。

 

 

軽妙で華やかできらびやかな曲想は、
まさしく女王が城に入っていく様を思わせる。
ふたつのオーボエのハモりが秀逸。

 

 

☆オペラ「エジプトのジューリオ・チェーザレ」HWV 17より
「難破した船が嵐から」(1724年)
「Giulio Cesare in Egitto」HWV17, Part3 ’Da tempeste il legno infranto’

 

 

「ジュリオ・チェーザレ」とは、「ガイウス・ユリウス・カエサル」
(英語表記でジュリアス・シーザー)
古代ローマ帝国の軍人を主人公にしたオペラ。
1724年にロンドンで行なわれた初演は大成功を収め、
ヘンデルをロンドン・オペラ界を代表する作曲家にした作品。

 

 

「難破した船が嵐から」は、
海で死んだと思われていたチェーザレが生きていた喜びを、
クレオパトラが歌い上げる場面で使われる。

 

メリスマ(歌詞の一音節に対して複数の音符を割り当てる歌唱様式)を
多用する技巧的にも難しい曲。
希望を抱かせるような早いパッセージを、上下に激しく動かす印象的な曲。

 

 

ここ数十年間は、長い間見捨てられていた
ヘンデル・オペラの復活気運が高まり、
「ヘンデル・ルネサンス」とも言われている。

 

次回は、ヘンデルの管弦楽曲、器楽曲を取り上げます。

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

『ラ・フォリア』

こんにちは。院長の波木です。

 

私が好きなクラシックの作曲家を順位づけすると、
バッハ、ラフマニノフ、ベートーヴェン、ブラームス、ショパン、
ラヴェル、ドビュッシー、プーランク、スカルラティ、ヴァイス。

 

クリニックでBGMとしてかけているのは、
バッハやヴィヴァルディやモーツァルト、
コレルリ、ロカテッリ、トレッリ、ヘンデル、ゼレンカなどの
バロック〜古典派の作曲家が主体となっています。

 

バッハの次に好きな作曲家は、セルゲイ・ラフマニノフ。
時代としては「近代」に分類されます。
しかし、作曲の手法や曲想としては、
ショパンなどの「ロマン派」に近く、
独特のロマンティックな旋律に、複雑な展開、
超絶技巧を要する難解な作曲手法が特徴です。

 

そんなラフマニノフの代表曲
「コレルリ(あるいはコレッリ)の主題による変奏曲 Op.42」

ウラジミール・アシュケナージによる演奏。
哀愁を帯びた美しい旋律。
まさにロマンチック・ラフマニノフの真骨頂!
奏者は、ラフマニノフと出身国が同じ。
完全に手の内に入れています。

 

ラフマニノフが作曲した中でも、大好きな曲ですが、
タイトルには以前から疑問がありました。
テーマに使ったフレーズ
(冒頭の レ・レ・ミ・ド レ・レ・ド・レ・ミ)は、
アルカンジェロ・コレッリのオリジナルではなく、
もっと以前の「舞曲」に由来するものだったからです。

 

その舞曲は「フォリア」と言います。

 

彼が、「フォリア」を知らなかったと言うことはないと思いますが
コレッリの考えた主題だったと勘違いしていたため、
間違ったタイトルをつけてしまったと考えられています。

 

ラフマニノフを魅了したフォリアのテーマ。

 

400年前に作られた曲が、
ラフマニノフだけでなく、それ以前にも、
多くの作曲家のインスピレーションを刺激し、
作品に昇華させています。

 

そんなたくさんの作品の中から
いくつか紹介していこうと思います。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

フォリア(folia)は、イベリア半島起源の舞曲。
15世紀末のポルトガルあるいはスペインが起源とされるが、
いずれかは定まっていない。
「サラバンド」と同じく3拍子の緩やかな音楽。
「フォリア」とは、「狂気」あるいは「常軌を逸した」という意味があり、
もともとは騒がしい踊りのための音楽であったことが窺われるが、
時代を経て優雅で憂いを帯びた曲調に変化した。

 

「フォリア」は、低音部の進行及び和声進行が定型化されるにつれて、
これをもとに変奏曲形式で演奏することが広まった。
基本的に、短調。
イ短調の場合、A-E-A-G-C-G-A-Eという調子。

 

17世紀にはイタリアで大流行し、多くの作曲家が採り上げている。
このような手法は、「シャコンヌ」「パッサカリア」などの変奏曲、
あるいは『パッヘルベルのカノン』とも共通するものである。

 

とくに、アルカンジェロ・コレッリの
『ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ』作品5の12曲中
最後に置かれた『ラ・フォリア』がよく知られる。

 

 

その後も各時代で扱われたほか、
「フォリア」とは明記されていないものでも、
「フォリア」の低音部進行を部分的に採用している曲も多い。
(from ウィキ)

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

最初に取り上げるのは、「フォリア」の名前を広めた作品、
コレッリのヴァイオリン・ソナタ。

 

Arcangelo Corelli : ヴァイオリン・ソナタ 作品5第12番《ラ・フォリア》
(出版 : ローマ 1700年)

 

コレッリが、1700 年にローマで出版した
ヴァイオリン・ソナタ集(作品 5)
憂いを帯びた優美な低音主題にのせて、
緩急さまざまで多彩な変奏が行なわれる。
変奏数は23。

 

 

ヴァイオリンの名手だったコレッリ。
この曲には、ヴァイオリンの運弓(右手の動かし方)技法が
たくさん盛り込まれていて、
演奏する上でも、楽曲を聞く上でも
魅力にあふれた作品になっています。

 

バロックダンスの付いた動画で。

 

 

続いて同じ頃(1703年)にヴィヴァルディが作曲したトリオソナタ。
27歳の若きヴィヴァルディが、コレッリの作品を参考に作曲したと
考えられている。
変奏数は19。

 

アントニオ・ヴィヴァルディ : トリオソナタOp.1-12
《ラ・フォリア》ニ短調RV63

全体的に単調で、彼の後半生の作品に比べると
2本のヴァイオリンの絡みも少ない。

 

マラン・マレ(1656-1728)はフランスの作曲家。
ルイ14世の宮廷を舞台にヴィオラ・ダ・ガンバの名手として活躍し、
作曲家としても、オペラ、ヴィオルを中心とした
室内楽作品を多く残しています。
「スペインのフォリアによる変奏曲」は、
ヴィオル曲集第2巻に含まれています。

 

マラン・マレ:スペインのフォリアによる変奏曲

ヴィオラ・ダ・ガンバとテオルボという組み合わせ。
通奏低音を奏でるテオルボが上の音域、
旋律を奏でるガンバが下の音域なので、
全体にしっとりとしつつ重厚感のある演奏になっている。

 

少し時代を遡ってみます。

 

アンドレア・ファルコニエリ (1585-1656) :Ciaccona and Folia
カンツォーナ第1集(1650)に含まれるこの曲は、
前半部のシャコンヌから、フォリアへ。

コード進行は同じだが、ファルコニエリの作品では、
メロディーラインはコレッリやマレの作品に比べるとはっきりしない。
そのかわりに舞曲としてのテンポ感と激しさが備わっている。

 

アレッサンドロ・ピッチニーニ (1566-1638) は
イタリアのリュート奏者。
Alessandro Piccinini:Partite variate sopra la Folia aria romanesca

リュートの素朴な響きを生かしたシンプルな変奏曲。

 

アントニオ・デ・カベソン(Antonio de Cabezón, 1510-1566)
スペインの作曲家・オルガニスト
カベソン:Pavana Con Su Glosa

 

この曲の起源はフォリアや民謡で、
比較的厳格な形式になっている。

Folias Criollas(作曲者不詳、1500)

緩くフォリアの型は感じるが、かなり淡い。
パーカッションが入って、リズミカル。
フォリアが舞曲由来だということがわかる。

 

17世紀以降のコレッリやヴィヴァルディ、マレらの作品は、
後期フォリアと呼ばれ、テンポが遅くなり、
コード進行が一定の型になっている。

 

現在につながる「ラ・フォリア」の典型は、この頃に定着し、
その後の作曲家がこれをもとに作品を作っている。

 

 

大バッハは、農民カンタータの中に取り入れている。

 

J.S.Bach:「カンタータ(農民カンタータ)BWV.212」

ドイツ的な厳格さを備えた作り。
変奏はなく、あくまで歌伴として使っている。

 

フェルナンド・ソル(1778-1839)は、スペインの作曲家、ギター奏者。
ソルは、ギターの音楽レベルを可能な限り高め、
ギターを世に広める努力をした。
ギターのベートーヴェンと呼ばれる。

 

ソル:スペインのフォリアOp.15

 

C.P.Eバッハ (1714-1788)は、J.S.バッハの息子。
父の影響を最も受け、当時は父よりも有名であった。
特に鍵盤楽器作品が多く、200曲以上のソロ曲を残している。

 

C.P.E. Bach:
12 Variations on “La Folia d’Espagne” in D Minor, Wq.118, No.9(1778年)

フォリアの主題の使い方、変奏の独創性、
緩急の付け方などを取っても傑作と言って良い。

 

 

フランツ・リスト(1811-1886) は、言わずと知れたピアノの魔術師。
『ハンガリー狂詩曲集』に代表されるように、
リストは民謡などの土着音楽を収集し、それらをもとに作曲を行っていた。
『スペイン狂詩曲』もこの種の作品と考えて間違いない。

 

Franz Liszt:
Rhapsodie espagnole, S. 254 “Folies d’Espagne et jota aragonesa”
スペイン狂詩曲(スペインのフォリアとホタ・アラゴネーサ 1858年)

前半は、フォリアの低音部と和声進行をもとに変奏。
後半部分、速いテンポの「ホタ(スペインの民謡や舞踊のジャンル)」で
劇的な盛り上がりを作り、
前半のフォリアが長調で華やかに再現されて楽曲を閉じる。

 

 

現代の曲の中にもテーマが使われている作品や、
コード進行を取り入れている作品も多数存在する。
それだけ、人々の耳に残り、心に沁みる音楽だということなのでしょう。

 

「フォリア」のテーマを憶えて、曲の中でその主題の変奏される様を
比較して聴いてみるのも面白いかもしれません。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

「フォリア」のテーマを使った曲を書いた作曲家

 

ガスパー・サンス、ストラーチェ、A.スカルラティ、
フレスコバルディ、マラン・マレ、リュリ、
J.S.バッハ、ジェミニアーニ、C.P.E.バッハ、
サリエリ、ソル、リスト、ブゾーニ、
ラフマニノフ、ロドリーゴ

 

★ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」第2楽章にも
フォリアの和声進行が取り入れられている。

この動画の中では、5分41秒あたりから6分までの
バスのコード進行がそれにあたります。

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

ヴィヴァルディ〜バッハ

こんにちは。院長の波木です。

 

今回は、前回紹介したヴィヴァルディと、
音楽の父バッハの関係について書きました。

 

二人は、同時代に生まれたバロック時代の二大作曲家ですが、
ヴィヴァルディが 7 つ年上で、
その活動の場や作曲スタイルは、大きく違っていました。

 

前回書いたように、ヴィヴァルディはヴェネツィアを中心に活動し、
ヴァイオリンを主に使った明朗で快活な作品を作曲。
オペラ作曲家としても活躍しました。
ヨーロッパ中を旅行し、イタリアだけでなく、
名声と代表曲はヨーロッパに知れ渡っていました。

 

一方のバッハは、生涯ドイツから出ることはなく、
地方の教会音楽家として
オルガンを中心とした教会音楽(ミサ曲、カンタータ)を多数作曲。
対位法を主にした、厳格で重厚な音楽を作っていました。

 

 

バッハの生まれ故郷は、ドイツ中部のアイゼナハ。

 

そこから、リューネブルク→アルンシュタット→ヴァイマル→
ケーテン→ライプツィヒと移り住み、
ライプツィヒで亡くなっています。

 

 

バッハは、同時代のドイツ国内の作曲家ヘンデルや、
ブクステフーデ、ラインケンらの曲を聞く機会はあり、
影響を受けたり、作曲に反映させたりしています。

 

1708年バッハが23歳の時、
ヴァイマルの宮廷で ヴィルヘルム・エルンスト公の
宮廷オルガニストとなりました。

 

エルンスト公の甥ヨハン・エルンスト公子(1696-1715)は、
少年時代から非凡な楽才を発揮し、
1713年7月、 留学していたオランダから帰国しました。

 

アムステルダムで、公子はイタリアやフランスの音楽に触れ、
たくさんの楽譜を持ち帰りました。

 

公子は、それらをバッハに渡し、
オルガン用に編曲することを提案します。

 

これを機にバッハは、イタリアで流行している作風や形式を学び、
それ以降の作曲スタイルに多大な影響を受けたことは、
作品が物語っています。

 

作品数にして22曲。
そのうち10曲がヴィヴァルディの作品だったことから、
バッハがヴィヴァルディの協奏曲形式に心酔していた事がうかがえます。

 

 

編曲一覧

 

オルガン独奏曲
BWV592 協奏曲第1番 ト長調
原曲=J.エルンスト公 (クラヴィーア版 592a)
BWV593 協奏曲第2番 イ短調 原曲=ヴィヴァルディRV522 Op.3-8
BWV594 協奏曲第3番 ハ長調 原曲=ヴィヴァルディRV208 Op.7-11
BWV595 協奏曲第4番 ハ長調 原曲=J.エルンスト公
BWV596 協奏曲第5番 ニ短調 原曲=ヴィヴァルディRV565 Op.3-11
BWV597 協奏曲第6番 変ホ長調 原曲不明

 

クラヴィーア独奏曲
BWV972 協奏曲第1番 ニ長調 原曲=ヴィヴァルディRV230 Op.3-9
BWV973 協奏曲第2番 ト長調 原曲=ヴィヴァルディRV299 Op.7-8
BWV974 協奏曲第3番 ニ短調 原曲=マルチェッロ オーボエ協奏曲
BWV975 協奏曲第4番 ト短調 原曲=ヴィヴァルディRV316 Op.4-6
BWV976 協奏曲第5番 ハ長調 原曲=ヴィヴァルディRV265 Op.3-12
BWV977 協奏曲第6番 ハ長調 原曲=マルチェッロ?
BWV978 協奏曲第7番 ヘ長調 原曲=ヴィヴァルディRV31 Op.3-3
BWV979 協奏曲第8番 ロ短調 原曲=トレッリ
BWV980 協奏曲第9番 ト長調 原曲=ヴィヴァルディRV383a Op.4-1
BWV981 協奏曲第10番 ハ短調 原曲=マルチェッロ
BWV982 協奏曲第11番 変ロ長調 原曲=J.エルンスト公
BWV983 協奏曲第12番 ト短調 原曲不明
BWV984 協奏曲第13番 ハ長調 原曲=J.エルンスト公
BWV985 協奏曲第14番 ト短調 原曲=テレマン ヴァイオリン協奏曲
BWV986 協奏曲第15番 ト長調 原曲不明(テレマン?)
BWV987 協奏曲第16番 ニ短調 原曲=J.エルンスト公

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

では、作品を紹介しましょう。

 

まずは前回も取り上げた
Vivaldi : ヴァイオリン協奏曲ニ長調
Violin Concerto in D major RV 230 Op.3-9

 

これを編曲した

 

Bach : Concerto BWV 972 in D major
アレグロ-ラルゲット-アレグロ

 

チェンバロ(by Richard Egarr)による演奏。

 

 

イタリアの乾いた空気と明るい曲調が、
チェンバロの音色とマッチして良い。

 

パイプオルガン(by 長田真実)による演奏。

 

 

バッハが超絶技巧のオルガニストであったことは有名で、
バッハオリジナルの多層的で重厚なオルガン曲には見られない
軽妙さが新しい。

 

シプリアン・カツァリスによるピアノ演奏で、第2楽章ラルゲット。

 

 

 

私が、バッハの編曲に着目するきっかけになったのが、
カツァリスのこのアルバム。
ドイツ国内で生涯を過ごしたバッハが、
音楽を通してイタリア旅行をしたというコンセプト。
チェンバロの演奏には見られない、奥行きのあるロマンティックな演奏。

 

Bach : Concerto BWV978 in F major (Vivaldi : RV 310 G major)
アレグロ-ラルゴ-アレグロ

 

Benjamin Alardによるチェンバロ演奏。

 

 

楽章のキャッチーな入りは、
バッハの後の作品に反映されているに違いない。
急・緩・急の3楽章(「リトルネッロ形式」)。
ラルゴを挟んでアレグロへ。
3楽章は、ヴィヴァルディが得意としているテーマを
繰り返していく形式に倣っている。

 

Bach : Concerto in A minor BWV593(Vivaldi : RV522 A minor)
アレグロ-アダージョ-アレグロ

 

 

原曲の溌剌とした感じがオルガンだと、ややもっさりして聞こえるが、
ヴァイオリンの立体感は、良くオルガンに移されている。
2楽章は、雲間から光がやっと一筋差しているような静寂。
3楽章は、複雑な構成。
低音から高音までフルに使ったオルガンの特性を把握している
バッハならではの編曲。

 

 

Bach : Concerto in D minor BWV596 (Vivaldi RV565 D minor)
アレグロ-アダージョ-フーガ-ラルゴ エ スピッカート-アレグロ

 

まずは原曲から。

 

 

ヴィヴァルディの曲としては、5つのパートからなる構成が異色。
低音を多用していて、全体的に重い曲調 。
3楽章でも、ヴァイオリンが主体ではあるが、曲想は物悲しい印象。

 

 

Van Doeselaarによるパイプオルガン演奏。

 

出だしからパイプオルガンの荘厳な感じが良く合う。
そして、1楽章の最後がいかにもオルガンのために作ったよう、
2楽章は、バッハ作品よりもバッハ的!!

 

この楽章は抜粋されてピアノ用に編曲されたりしている。
敬愛するピアニスト アンヌ・ケフェレックもよく演奏している。

 

 

楽章は、これを編曲だとは誰も思わないだろう・・・・という出来栄え。

 

Bach : Concerto in C major BWV594 (Vivaldi RV208a D major )
アレグロ-レチタティーヴォ-アレグロ

 

 

Balint Karosiによるパイプオルガン演奏。

 

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲 RV 208を編曲したもの。
オペラの序曲のような出だし。
トランペットを思わせる明るい響きが印象的。

 

Bach : Concerto in C Major BWV 976(Vivaldi RV265 Op.3-12 E major )
Tempo giusto-Largo-Allegro

 

 

Robert Hillによるチェンバロ演奏。

 

1楽章の明快で快活な感じはバッハのオリジナルには無い曲調。
3楽章では、メロディーと左手の伴奏が複雑に絡み合う。
バッハの編曲者としての技量が最大限に発揮されている。

 

 

珍しいクラヴィコードによる演奏。
決して綺麗な音ではないけれど、素朴で味わいのある演奏。
バッハは、普段遣いの楽器としてクラヴィコードを愛用していた。

 

最後にバッハオリジナルの イタリア協奏曲BWV 971 。
Bach:Italian Concerto BWV 971

 

 

 

Marco Mencoboniによるチェンバロ演奏。

 

734年ライプツィヒ時代に作られたこの作品は、
リトルネッロ形式による活発な2つの楽章の間に、
豊かな旋律声部とそれを支える単純な伴奏声部から成る
緩徐楽章が置かれています。
チェンバロ独奏用に作られたにもかかわらず、
「協奏曲」と付けられているのは、
ヴィヴァルディの協奏曲形式に倣って作曲されたからでしょう。

 

 

敬愛するピアニスト アンドラーシュ・シフの演奏で。
軽すぎず、重たくならず、絶妙な匙加減で音の奥行きを差配する。
曲の難易度としてはさほど高くないこの曲を、
高い完成度で表現するシフ。

 

バッハが音楽を通じて出会った異国の地。
言葉でも、絵でもなく、楽譜から感じ取ったイタリアやフランスが
ドイツの片田舎に住むバッハにとってどれほど刺激的だったか。。。
彼の編曲が、ただ習うのではなく、
彼なりの解釈と工夫をしてアウトプットしたからこそ、
オリジナルと間違われるほどのレベルの高さを保てたのでしょう。

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

アントニオ・ヴィヴァルディ

こんにちは。院長の波木です。

 

ヴィヴァルディの名前と、
彼の作品《四季》を知らない方はいないでしょう。

 

その中で、「春」は最も知られた曲
(「春」は3楽章からなり、第1楽章の冒頭が有名)。

 

《四季》は、
12曲のヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』作品8のうち、
第1から第4曲の、「春」RV269、「夏」RV315、
「秋」RV293、「冬」RV297の総称です。
(作品番号は、RV番号(リオム番号))

 

 

アントニオ・ヴィヴァルディ
(Antonio Lucio Vivaldi, 1678年3月4日 – 1741年7月28日)

 

現在はイタリアに属するヴェネツィア出身の
バロック音楽後期において著名な作曲家の一人、
ヴァイオリニスト、ピエタ慈善院の音楽教師、カトリック教会の司祭。
多数の協奏曲の他、室内楽、オペラ、宗教音楽等を作曲。

 

作品は未完、紛失、偽作、共作(オペラに多い)
の作品を含めると800曲以上にも及ぶ。
未発見の作品もまだあると見られており、ヴィヴァルディの総作品数が
どれくらいの数に及ぶのかは不明である。

 

ヴィヴァルディは特に急・緩・急の3楽章を持ち、
主に第1楽章において全奏による繰り返しと
独奏楽器による技巧的なエピソードが交替する
「リトルネッロ形式」をもつ独奏協奏曲の形式を
確立した人物として知られる。

 

ただし実際にはヴィヴァルディが独奏協奏曲の考案者というわけではなく、
トレッリらはヴィヴァルディ以前に独奏協奏曲を書いているが、
ヴィヴァルディの作品は国際的に有名になり、
多くのドイツの作曲家がヴィヴァルディの形式で
協奏曲を書くようになった。

 

協奏曲の独奏のために用いられた楽器の種類と
組み合わせの多彩さでも知られ、
大量のヴァイオリンのための協奏曲だけでなく、
チェロ、リュート、テオルボ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、
ヴィオラ・ダモーレ、マンドリン、オーボエ、フルート、
ピッコロ、シャリュモー(クラリネットの前身)、
バソン/ファゴット、トランペット、トロンボーン、ホルン、オルガン等、
同時期の作曲家としては格段に多様である。

 

ヴィヴァルディが教師を務めたピエタ慈善院は、
キリスト教会が行う慈善事業の一環として、
孤児や棄児の養育を目的に建てられた。
音楽の才能を見出された少女は選抜され、
付属の合唱団や交響楽団に入るための訓練を受けた。

 

才能のある女子に対して、ピエタの運営委員会が、
珍しい楽器を演奏させて、
演奏会の希少性を高める事をヴィヴァルディに求めた。
その要求に応えて、オーボエやバソンといった管楽器、
チェロ、オルガンといった伴奏用の楽器にも独奏楽器の地位を与え
ピエタの娘たちに演奏させた。

 

運営委員会はヴィヴァルディに、
月に2曲の協奏曲を書くことを義務づけていて、
結果として500以上の協奏曲を残した。

 

この時期、基本的に音楽院の音楽教師という立場にいながら、
作曲家としてのヴィヴァルディの名声はヨーロッパ中に広がり始めていた。

 

これは、生命力のほとばしりを感じさせる瑞々しい曲想のみならず、
合奏協奏曲から更に進んだ独奏協奏曲のスタイルを
確立していったためと考えられる。

 

実際18世紀において《四季》の人気は高く、
特に「春」は引用や編曲の対象になっていた。

 

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

 

まずは「春」から紹介しましょう。

「和声と創意の試み」 協奏曲第1番ホ長調「春」
Concerto No.1 “Spring” in E MajorOp.8-1 RV269
アレグロ-ラルゴ-アレグロ

 

 

最近の動画。
バロックバイオリンを中心とした古楽器の編成。
軽やかで、溌剌としていて、自由度が高くて非常に良いですね。
ヴァヴァルディが作曲した当時も、ピエタ慈善院では
このような形式で演奏されていたのでは無いでしょうか?

 

https://youtu.be/TKthRw4KjEg?si=R0BQCyhSr8OkGCai

 

巨匠 イツァーク・パールマン(Itzhak Perlman)による弾き振り。
編成が大きくなると、派手に聞こえるものの、
どうしても曲調が重たくなる。
我々が子供の頃に音楽の授業で聞いたのは、こんな演奏だったのかも?
春らしい、花びらがヒラヒラと風に舞って行くような爛漫な感じを
表しているとは言えない。

 

私が《四季》の中で、特に惹かれるのは「冬」の3つの楽章。

 

「和声と創意の試み」 協奏曲第4番ヘ短調「冬」
Concerto No.4 “Winter”in F minor Op.8-4 RV297
アレグロノンモルト-ラルゴ-アレグロ

 

Giuliano Carmignola (Baroque Violin)
Venice Baroque Orchestra
Andrea Marcon (conductor)

 

 

凍てつくような空気、雪、吹雪、氷が表現されている1楽章。
暖かな屋内で穏やかに過ごす様子を描く2楽章。
冷たい風が吹いて、氷が張った川を歩く様を表現した3楽章。

 

凝縮された魅力を持った展開を、
作為的に感じさせないところが素晴らしい!

 

バロックを代表する大家であったバッハがそうであったように、
ヴィヴァルディもまた18世紀末から19世紀にかけて
忘れ去られた存在になっていました。
19世紀半ばになってようやく再評価されたわけですが、
この《四季》が見つかったのはそれ以降のこと。

 

《四季》からもう一曲。

 

「和声と創意の試み」協奏曲第2番ト短調 「夏」
第3楽章プレスト(夏の嵐)
Concerto No.3 “Summer” in E Major Op.8-3 RV315-Presto

 

 

夏の暑さの中、かっこうが遠くで囀る。
そのうち、雷鳴が聞こえ、やがて雹が降り始める。
「夏の嵐」を表現したこの楽章は、独創性に優れ、
ヴィヴァルディの全作品の中でも特筆すべき曲。

 

ヴィヴァルディの「四季ブーム」が巻き起こったのは、
1959年録音の『イ・ムジチ』によるCDがヒットしたことによる。
この録音は、今なお名盤として君臨する、まさにバイブル的演奏。

 

 

 

マンドリン協奏曲ハ長調 第1楽章アレグロ
Concerto for Mandolin in C Major, RV425-Allegro

 

 

映画「クレイマー・クレイマー」の挿入曲として有名になりました。
日本でもCMや、某番組のBGMでよく使われています。
マンドリンで演奏するために作られた曲ですが、
ヴァイオリンや他の楽器で演奏されることも多い。

 

 

 

1996年に上映されたオーストラリアの映画「シャイン」では、
「グロリア」と「モテット《まことのやすらぎはこの世にはなく》」
が使われた。

 

 

グロリア ニ長調 いと高きところには神に栄光あれ より
Gloria in D Major, RV589 I. Gloria in excelsis Deo

 

 

出だしから力強い合唱、美しい独唱アリア、
ドラマティックな響きが多幸感を生み出す。

 

「シャイン」は、統合失調症を患う実在のピアニストを描いた作品。
全体を通して抑圧された暗いテーマで物語は進みます。
主人公がラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を弾くことによって
さらに病気を悪化させてしまう。

 

そんな状態から、あるきっかけで再び世に出ることが出来た際の
悦びに溢れた様を、「グロリア」が表し、さらにエンディングで、
次に紹介するモテットが用いられている。

 

この曲は1920年代に再発見されるまで、楽譜は埃をかぶっていたそう。

 

 

モテット《まことのやすらぎはこの世にはなく》
Nulla in mundo pax sincera RV630

 

 

ヴィヴァルディの作品は、基本的に明るい7割、暗い3割で
作られているのですが、ここまでの明るさは他に例が無く、
まさに天上の音楽といっても良いくらいのパラダイス感!

 

 

「調和の霊感」2つのヴァイオリンのための協奏曲イ短調 作品3第8番
Concerto for 2Violins in A minor, RV522, Op.3 No.8
アレグロモルト-アンダンテ-アレグロ

 

合奏協奏曲集「調和の霊感」の中の1曲。
2本のヴァイオリンと伴奏の対話が、立体的で大変美しい作品。
特に第2楽章、ファーストヴァイオリンとセカンドのハモリが鳥肌もの!
そして圧巻の第3楽章へ。

 

https://youtu.be/m1k_yexUE6s?si=kzebdf9YIko0Yfhd

 

 

「調和の霊感」4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲ロ短調
作品3第10番
Concerto for 4Violins in B minor, RV580, Op.3 No.10
アレグロ-ラルゴ-アレグロ

 

ロ短調の美しい旋律が、淀みなく、ほぼ休みなく3楽章まで続く。
チェンバロの曲でも紹介した
バッハの4台のチェンバロのための協奏曲の原曲。
ヴィヴァルディは、ハーモニーだけでなく、
演奏する見栄えも考えてパート分けをし、
作曲したのではないのでしょうか?

 

 

こちらの動画だと、4つのバイオリンのバランスが良くわかる。

 

 

 

ソロ・ヴァイオリンとエコーヴァイオリンのための協奏曲イ長調
Concerto for violin, “violino per eco lontano” in A Major RV552
アレグロ-ラルゲット-アレグロ

 

 

この曲のコンセプトは非常に面白く、
斬新なアイデアに驚くしかありません!

 

曲は、ソロパートの旋律が美しく、
それがエコーヴァイオリンで繰り返されます。
タイトルを「遠くのこだま(per eco lontano)」と表されるのは、
ソロヴァイオリンをステージ上に置き、
エコーヴァイオリンを2階やステージの後方に置くという、
その配置に起因します。
ソロヴァイオリンが弾いたフレーズが、
まるでこだま(エコー)のように遠くから響く・・・。

 

この動画では、拍手の中を最後に現れる3人のヴァイオリニストが、
おそらく2階か客席の外で、誰もいない中、演奏していたのでしょう。

 

私は、以前実演を聴いています。
目の前のステージで誰も弾いていないのに、後ろから音が聴こえる不思議。
おそらく、今後見ることは無いでしょう。

 

リュートとヴァイオリンと通奏低音のためのソナタハ長調
Sonata for lute, violin and continuo, RV82
アレグロノンモルト-ラルゲット-アレグロ

 

 

ピチカートで、明るく可愛らしく始まる1楽章。
この曲の白眉は、2楽章のリュートとチェロの掛け合い♪
軽妙で楽しい3楽章。

 

同じ曲を、独奏楽器がマンドリンのヴァージョンで。

 

 

3人で演奏しているとは思えない深みのある演奏。
3楽章のヴァイオリンとマンドリンのユニゾンが素晴らしい。

 

 

ソプラニーノ・リコーダー協奏曲ハ長調
Concerto for sopranino recorder in C Major, RV443
アレグロ-ラルゴ-アレグロモルト

 

 

ヴィヴァルディは、リコーダーのための協奏曲をいくつも作曲しています。
この曲は、リコーダーの中でも最も高い音を出す
ソプラニーノ・リコーダーを念頭に作曲されています。

 

軽やかで、まるで羽が生えて飛んでいきそうな曲調。
うちのクリニックでも午前中によくかけています。
現代では、ピッコロで演奏されることが多い。

 

この動画は、撮影場所が面白くて、どこかの遺跡でしょうか?
その割に、音が良く、それぞれの楽器の音がバランスよく聴こえます。
そして、超絶技巧を要する演奏を動画で見られるのも素敵。

 

 

「調和の霊感」ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品3第9番
Violin Concerto in D Major, RV 230, Op.3 No.9
アレグロ-ラルゲット-アレグロ

 

 

インパクトのある出だしから、ヴァイオリンソロが際立つ2楽章。
3楽章は、ヴァイオリンの美しいハモリから始まり、
ソロ(トゥッティ)とユニゾンを繰り返して終わる。

 

 

ヴィヴァルディが作曲した膨大な数の作品から、
ほんの一部を紹介しました。
突出した傑作と呼べる曲は、十数曲かもしれませんが、
駄作が無いのもヴィヴァルディの凄さです。

 

特に「和声と創意の試み」「調和の霊感」は、どれも名曲。
機会があれば、是非聞いてみてください。

 

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

 

過去に観た演目。

 

1995年9月23日@サントリーホール
ミカラ・ペトリ(リコーダー)、スロヴァキア室内合奏団

 

ソプラニーノ・リコーダー協奏曲ハ長調 RV443

 

 

2010年7月11日@かつしかシンフォニーヒルズアイリスホール
アンサンブルかつしか

 

ソロ・ヴァイオリンとエコーヴァイオリンのための協奏曲イ長調 RV552

 

 

2014年5月3日@よみうりホール
リチェルカール・コンソート

 

トリオ・ソナタ ホ短調Op.1-2 RV67
ヴァイオリンとヴィオラ・アッリングレーゼのためのソナタ
ソナタ集 「忠実な羊飼い」よりト短調 Op.13-6 RV58
チェロ・ソナタ イ短調 Op.14-3 RV43
トリオ・ソナタ ニ短調 Op.1-12 RV63「ラ・フォリア」

 

 

2018年3月15日@東京文化会館小ホール
古典音楽協会

 

「調和の霊感」合奏協奏曲 ニ短調 Op.3-11 RV565
リコーダー協奏曲「ごしきひわ」ニ長調 Op.10-3 RV428
「調和の霊感」4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ロ短調
Op.3-10 RV580

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

チェンバロの曲

こんにちは。院長の波木です。

 

前回の記事で、チェンバロの歴史や構造、
クラシック界における楽器の立ち位置の変遷、
現在の音楽界における使われ方を簡単に説明しました。

 

ルネッサンス期からバロック期にかけて、
「鍵盤楽器の王」であったチェンバロ

 

そのチェンバロのために様々な作曲家によって、
たくさんの曲が書かれてきました。

 

今回は、チェンバロが鍵盤楽器の主役を担っていた
「ルネッサンス期〜バロック期」
バッハ以外の作曲家の曲を紹介したいと思います。

 

 

最初は、スウェーリンク
「Pavana Lachrimae(涙のパヴァーヌ)after Dowland 」
by Glen Wilson

 

スウェーリンク(jan pieterszoon sweelinck 1562年アムステルダム生)

 

ルネッサンス後期からバロック前期の作曲家・オルガニスト。

 

 

 

この曲は、当時大流行したイングランドの作曲家ダウランドの歌曲
「Pavana Lachrimae(涙のパヴァーヌ)」の編曲版。

 

儚く切ない、苦悩や悲哀を表した原曲の歌詞を投影したような曲調。

 

 

続いて、オランダのシブランドス・ファン・ノールド
(Sybrant van Noordt 1659-1705)
「Sonata A minor」by Bob van Asperen

 

 

題名がソナタとなっていますが、ソナタ形式ではありません。

 

シャコンヌやパッサカリアと言ったほうがいいかもしれません。

 

主題を次々に変奏していく即興性がこの作品の魅力になっています。

 

 

フランソワ・クープラン「恋の夜鳴きうぐいす(Le rossignol en amour)」
by Denis Bonenfant

 

 

フランス・バロックを代表する作曲家クープランは、
1668年にパリで生まれ、チェンバロのために200数曲を残しました。

 

そのいずれもが、
フランスならではの洒脱さとエスプリに満ちた作品となっています。

 

この曲の構成は、右手のメロディーラインに左手の伴奏という、
割りとオーソドックスな形です。

 

右手の装飾音がうぐいすのさえずりを想起させ、
日本でいう「ホーホケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ」
の部分が後半に出てきます。
ただ、「夜」の感じはあまりありません。

 

 

 

ジャン=フィリップ・ラモー(Jean-Philippe Rameau, 1683年生)は、
バロック時代のフランスの作曲家。
ラモー「ファンファリネット」by Olivier Baumont,

 

 

この曲は、新しいクラヴサン曲集第4組曲の第5曲。

 

ファンファリネットは、小さなファンファーレの意。

 

その名の通り、ちょっとした良いことがあった時の
心の高揚感を表すような可愛らしい曲。

 

 

ジャック・デュフリ
(Jacques Duphly 1715年生 フランスの作曲家
オルガン・チェンバロ奏者)

 

「ドゥ・ブロムブル ニ短調 (快活に)
La de Belombre (Vivement)」by Skip Sempe

 

 

出だしがインパクト大!

 

短調の曲にも関わらず、題名通りの快活さが表現されている。

 

 

続いて、J.S.バッハと同い年1685年生のドメニコ・スカルラティ

 

イタリアの有名な作曲家アレッサンドロ・スカルラティの子として生まれ、
礼拝堂の音楽監督を務めた後、スペインへ移住し、
チェンバロ独奏用のソナタを540曲以上作曲。

 

スカルラティの鍵盤楽器のための作品は
主にチェンバロ用と推定されているが、研究の現状では、
チェンバロ以外の鍵盤楽器が完全に想定外であるかは
はっきりしていない)
「Sonata K. 1 in D minor」by David Louie

 

 

(作品番号の頭の「K.」は
カークパトリック(によって付けられた)番号で、
K. 1から30のみが、生前に出版された。)

 

この曲は、右手の下降音型、3度の分散和音とトリル、
左手の伴奏音型の練習になっている。

 

短調の曲なので、全体を覆う憂いを感じつつ、
チェンバロ特有の乾いた音色が、暗さを消し去っている。

 

 

「Sonata K. 141 in D minor」by Jean Rondeau

 

 

右手の同音連打が印象的な曲。

 

スカルラティは、チェンバロという楽器の限界を超えたイメージを持って
この曲を作ったのかもしれない。

 

それ故か、この曲はピアノで演奏されることが多く、
マルタ・アルゲリッチやアレクサンドル・タローの
アンコールピースとしても有名。

 

シャン・ロンドーは、曲想や間の取り方が革新的で、
チェンバロの新たな可能性を示す演奏。

 

 

 

デュフリの「La Forqueray」by Falerno Ducande

 

 

 

ジャック・デュフリ(jacques duphly 1715年生)はフランスの作曲家、
オルガン・チェンバロ奏者。

 

この曲は、不思議な曲。

 

揺れ動く哀しげな単音旋律に伴奏部が絡みそうで絡まない。

 

弾き方によって微妙に明るさ暗さが変わってくる感じ。

 

 

最後は、ロワイエ(joseph-nicolas-pancrace royer 1705年頃生
フランスバロック音楽の作曲家、チェンバロ奏者)

 

「スキタイ人の行進(La Marche des Scythes)」

 

この曲は、バロック期のチェンバロ用楽曲の中にあって、
超絶技巧を要する難曲。

 

全編がアグレッシブで、鬼気迫るという例えがピタりとハマる曲。

 

実演は、植山けいさんの演奏で聴いています。

 

初めてその曲を聴いた時、何なんだこの荒々しい曲は!!
と感嘆した記憶があります。

 

 

巨匠スキップ・センぺの演奏で。

 

録音環境があまり良くないため、残響が被ってしまっているが、
それでもセンぺの技巧を目の当たりにできる演奏。

 

 

 

Jean Rondeauの演奏で。

 

センぺよりもさらに速い演奏。

 

ただ速いだけではなく、緩急を使い分けているところも素晴らしい。

 

チェンバロの魅力を余すことなく表現しきっている。

 

 

Yago Mahúgoによる演奏。

 

 

右手と左手のバランスが絶妙!

 

上段と下段の使い分けで、全体の流れをコントロールしている。

 

こういった違いは録音だけでは計り知れない。動画ならではの発見!!

 

 

Marco Mencoboniによる演奏。

 

スピードは無いが、リズミカルで、かつ味のある演奏。

 

 

前者に比べて遅いが、
しっかりとした技術に裏打ちされた演奏で、好感が持てる。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

 

チェンバロ用(あるいはその時代の鍵盤楽器用)に書かれた楽曲を、
チェンバロで演奏した音源、いかがでしたか?

 

バロック期の、あるいはそれ以前のルネッサンス期の作曲家や
作品が再発掘され、演奏者がそれを取り上げ、
またその演奏を現代の人たちが聞く。

 

バロック期の作品を、
作曲時には無かったピアノで演奏する音源や録音も沢山あります。

 

ピアノ演奏で古い時代の良い曲を取り上げてくれたからこそ、今の、
チェンバロをはじめとする古楽器の存在意義が増しているのでしょう。

 

そんな背景も思い浮かべつつ、チェンバロの曲を聴くと、
また違う楽しみ方が出来るかもしれません。

 

<著名なチェンバリスト>

 

スコット・ロス、トレヴァー・ピノック、トン・コープマン、
ボブ・ファン・アスペレン、ピーター=ヤン・ベルダー、
グスタフ・レオンハルト、
クリストファー・ホグウッド、ケネス・ギルバート、
クリステアーヌ・ジャコッテ、
ヘルムート・ヴァルヒャ、アンドレアス・シュタイアー、
エディット・ピヒト=アクセンフェルト、
カール・リヒター、ピエール・アンタイ、
ロベール・ヴェイロン=ラクロワ、オリヴィエ・ボーモン、
ワンダ・ランドフスカ、クリストフ・ルセ、
小林道夫、鈴木雅明、曽根麻矢子、中野振一郎、渡邊順生

 

<有望株>

 

ジャン・ロンドー、マハン・エスファハニ、
バンジャマン・アラール、ジュスタン・テイラー
大塚直哉、水永牧子、植山けい、鈴木優人、松岡友子

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

チェンバロについて

こんにちは。院長の波木です。

 

最近、患者さんから「ブログ見てます」、
「特に音楽の話題を楽しみにしてます」と言われることが多くなりました。
読んで頂いている方が多いと思うと、記事を書くのも張り合いがあります。

 

読後の感想などを診療後などにお話し頂けると、嬉しいです。

 

さて、今回は
クラヴィコード、リュート、ピアノに続いての楽器紹介です。
チェンバロを実際に見る機会は、なかなか無いと思います。
しかし、日常なんとなく聞いているテレビのBGMや洋楽、
邦楽、ドラマや映画の劇伴などで耳にすることは非常に多い楽器なのです。

 

 

チェンバロ(イタリア語)は、
①弦を④プレクトラム(爪)で弾いて発音する鍵盤楽器の中の撥弦楽器。
英語ではハープシコード 、フランス語ではクラヴサンという。
現存する最古のチェンバロは、1480年頃に製作された
作者不明のクラヴィツィテリウム

 

 

チェンバロは合奏の中で通奏低音を受け持つ
伴奏楽器として使われていたが、
17世紀から18世紀にかけて数多くのチェンバロのための
楽曲が作曲され黄金時代を迎えた。
18世紀の終わりから19世紀の初めにかけてフォルテピアノが一気に台頭し、
鍵盤楽器の王者の地位を追われるが、
20世紀に入ってからランドフスカによって見なおされ、
古楽の歴史考証的な演奏のために復興され、
現代音楽やポピュラー音楽でも用いられている。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/チェンバロ#構造

 

チェンバロの音量は、打鍵(鍵盤を弾くこと)の
強弱によって変えることがほとんど出来ない。
しかし、チェンバロはレジスターと呼ばれる音色の選択機構によって、
音量、音色を段階的に切り替える事が可能である。

 

 

チェンバロの製作様式は大別するとイタリア式フランス式に分けられる。
イタリアン・チェンバロの響きは明るく軽い
イタリアン・チェンバロのほとんどは1段鍵盤で、
通常は2組のユニゾンの弦が張られている。

 

フレンチ・チェンバロは、ほとんどが2段鍵盤で、
下段は8フィートと4フィートの2組、
上段は8フィート弦1組が張られている。
フレンチ・チェンバロの音は、豊かで力強い

 

 

チェンバロの鍵盤は、現代のピアノと同じくナチュラル・キーが白で
シャープ・キーが黒いが、フランスでは逆にナチュラル・キーが黒く
シャープ・キーが白い鍵盤が好まれた。
現代のピアノの「ラ(A)」を442~443Hzで調律されるのに対し、
チェンバロの音高はバロック時代のピッチ415Hzに調律されている。
(数字が大きいほど音が高くなる) 』

 

 

私が最初にチェンバロを生で聴いたのは、
1995年9月23日サントリーホールのコンサート。
リコーダーの巨匠ミカラ・ペトリの演奏会でした。

 

当時私は、チェンバロのために書かれた作品を
ピアノで演奏したCDをたくさん聴いていました。

 

例えば、グレン・グールド演奏のスカルラティのソナタ。

 

 

グールドのノンレガート奏法と曲調がすごく合っています。
この演奏と、巨匠ホロヴィッツのCDで、
スカルラティの魅力に気がつきました。
ドメニコ・スカルラティは、イタリアの作曲家で、
チェンバロ独奏用のソナタを540曲以上(総数は不明)書きました。
イタリアらしい明るい曲が多く、
特にトリルなどの装飾音に特徴があリます。
しかし、ピアノでの演奏をたくさん聴いた後に
チェンバロでの演奏に触れると
次第に疑問を抱くようになってきました。
どちらがスカルラティの楽曲を、作曲者の製作意図に沿って、
より魅力的に表現できているのか・・・

 

チェンバリストDavid Louieによるスカルラティ「Sonata in D minor K.9」

 

 

短調の曲ですから、
全体に物憂げな暗さがつきまとうのですが、
チェンバロの演奏だとその中に軽妙さが良い塩梅に混じる

 

バッハ
「イタリア協奏曲(Italien Concerto) BWV971」第一楽章

 

Rafał Blechaczによるピアノ演奏

 

 

原題は「イタリア趣味によるコンチェルト」で、
バッハがヴィヴァルディをはじめとする
イタリアの作曲家や作風を意識して協奏曲用に作ったチェンバロ独奏曲

 

ピアノで自分もやった曲なので、
ピアノ演奏で聴くことに違和感はないのですが、
これをチェンバロ演奏で聴くと、歯切れ良く、
軽やかで実にチャーミングに聞こえます。

 

 

植山けいさんの演奏は「チェンバロの日」というイベントで
聴いた事があります。

 

 

 

イタリアンチェンバロ

 

 

チェンバロは、楽器そのものの美しさも魅力です。
このチェンバロも、外枠、響板、屋根と華麗な装飾が施されています。
一台一台違う絵柄で、唯一無二の楽器となっています。

 

 

 

フレンチチェンバロ

 

 

フランスの作曲家ジャン=フィリップ・ラモーの「鳥のさえずり」

 

 

チェンバロの音をチチチという鳥のさえずりに見立てた曲。
チェンバロ作品には、ラモーのこの曲に限らず、鳥を題材にした曲が多い。
しかし、それらをピアノ演奏で聴くと、
鳥らしさはあまり感じられなくなります。

 

✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎  ✳︎

 

チェンバロは、前述したように
昔も今もさまざまなジャンルで使われています。

 

 

「薔薇色のメヌエット」ポール・モーリア

 

 

「I’ll Be Back」Wes Montgomery

 

 

・ポール・モーリア「天使のセレナーデ」
・ポール・モーリア「恋はみずいろ」
・ポール・モーリア「オリーブの首飾り」
・アニメ「キャンディキャンディ」〜オープニングテーマ〜
・半沢直樹 ~Main Title~
・光る君へ
・木村カエラ「Butterfly」
・DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」
・The Beatles「Piggies」
・The Rolling Stones「In Another Land」

 

 

最後にバッハの
「4台のチェンバロのための協奏曲 BWV 1065」を。

 

 

4台のチェンバロ協奏曲を書いたのは、
音楽史上でバッハしかいません。

 

この曲の元曲は、
ヴィヴァルディの協奏曲集『調和の霊感 作品3』
「4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲ロ短調」で、
それをバッハがチェンバロ用に編曲したもの。

 

昔も今もチェンバロを4台揃える事さえ難しいのに、
それを調律し、かつ演奏者を集めることなど、
単独のコンサートではあり得ない事です。

 

この動画も、次の動画もいわゆるフェスでのもの。

 

チェンバロ演奏では、観客が舞台上で聴いているのが特徴的。
チェンバロの音量では、広いホール、
大規模のオケという編成ではバランスが悪くなります。

 

ピアノ演奏は、アルゲリッチ、キーシン、プレトニョフと巨匠が勢揃い。

 

 

この演奏は、今でも奇跡的イベントだと評されています。

 

 

最初にお話ししたように、現代の様々な音楽や効果音にも、
チェンバロは思いのほか使用されています。

 

そんな音を探しながら音楽を聴いたり、
テレビを見るのも面白いと思います。

 

 

過去に行ったチェンバロコンサート。

 

2014年5月5日 チェンバロの日 中村恵美 植山けい
2014年12月23日 津田ホール 小林道夫
2015年5月4日 ラフォルジュルネ 鈴木雅明 鈴木優人
2016年7月3日 チェンバロフェスティバル 曽根麻矢子 大塚直哉
渡邊順生 鈴木優人
2016年8月11日 かまがや木楽の家 松岡友子
2016年12月29日 近江楽堂 渡邊順生
2018年2月22日 東京文化会館小ホール ケネス・ワイス

 

 

 

【医院からのお知らせ】
夏季休診のお知らせ
8月8日〜13日まで休診とさせて頂きます

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2024」

こんにちは。院長の波木です。

 

今年のGWは5連休でした。

コロナ禍前のGWのメインイベントは

ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)・オ・ジャポン」でした。

 

以下ウィキペディアより

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83

%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%

A5%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BB

%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%9D%E3%83%B3_%E3%80%8C%

E7%86%B1%E7%8B%82%E3%81%AE%E6%97%A5%E3%80%8D%E9%

9F%B3%E6%A5%BD%E7%A5%AD

 

2005年に始まったこの催しは、

東京国際フォーラムを中心とした周辺施設で、

有料無料のコンサートやライブ、ワークショップ、

展示会、講演会を開催する一大イベントとなっています。

 

私が最初に参加したのは2014年。

その時に観た最初の公演は、

アンヌ・ケフェレックがピアノを弾く

ハイドンとモーツァルトの室内楽でした。

 

その後は、2015年、2016年、2018年、2019年の

会期中の1日は参加していて、今回は5年ぶりの参戦

 

 

☆最初の公演は、ピアニスト:アンヌ・ケフェレックのソロ。

 

・J.S.バッハ/ブゾーニ:コラール前奏曲「来たれ異教徒の救い主よ」 BWV659a

・マルチェッロ/J.S.バッハ:オーボエ協奏曲 ニ長調 BWV596より アダージョ

・ヴィヴァルディ/J.S.バッハ:オルガン協奏曲 ニ短調 BWV596より ラルゴ

・スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.32 「アリア」

・ヘンデル/ケンプ:メヌエット ト短調 HWV434

・J.S.バッハ/ヘス:コラール「主よ、人の望みの喜びよ」 BWV147

・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調op.110

 

最初に彼女の演奏を聴いたのは、2010年11月の佐倉市民ホール。

その時のプログラムも、前半はこの日とほぼ同じ。

 

14年経っても彼女の繊細で凛とした演奏スタイルは変わらない。

ベートーヴェンは、バッハを敬愛し、その作風を曲に取り入れた。

その集大成がピアノ・ソナタ第31番。

珍しく演奏前に通訳を連れて解説をするケフェレック。

この曲に対する彼女の想いを、聴衆に語らずにはいられなかったのだろう。

 

そして荘厳な31番が、彼女の中で昇華され、

美しく、そして儚く、時に力強く聴衆の心を打つ。

 

 

 

 

☆2つ目の公演は

・モーツァルト:オペラ《ドン・ジョヴァンニ》序曲 

・ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 op.21

 

小林愛実 (ピアノ)

群馬交響楽団 (オーケストラ)

横山奏 (指揮者)

 

余韻に浸る間も無く移動、なんとかショパンの前に着席できました。

ショパンのピアノ協奏曲といえば第1番。

(実際には、第1番とあるが、2番目に作られている)

 

3年前のショパンコンクールの最終審査(オーケストラとの競演)でも、

2位になった反田恭平をはじめ、

ほとんどの演奏者が第1番を選択しています。

 

2番を聴くのは2回目で、いずれもこのイベント。

コンサートプログラムとしての構成、それによる集客を考えると、

演目の選択はかなり重要なファクターを占めます。

 

このイベントのように、

テーマを設定して構成されるコンサートの場合、

演奏される曲の認識度や人気より、

珍しさや特異性に、お客さんも惹かれる傾向にあると思います。

 

アンコールは、ショパンのノクターン嬰ハ短調。

 

小一時間空いたので、ドイツビールのお店で、

ポーチドエッグがのったシュパーゲル(ホワイトアスパラ)を食す。

 

 

☆3つ目の公演は

・モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K.271「ジュナミ」 

・モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364

 

アンヌ・ケフェレック (ピアノ)

オリヴィエ・シャルリエ (ヴァイオリン)

川本嘉子 (ヴィオラ) 

東京21世紀管弦楽団 (オーケストラ)

中田延亮 (指揮者)

 

チャーミングな出だしのフレーズ。

ピアノとオケの掛け合いが当時としては斬新だったらしい。

 

2019年 ピアノ協奏曲第25番 ハ長調 K.503 に次ぐ、

ケフェレックのモーツァルトのピアノコンチェルト。

一本筋の通った可憐なピアノとオーケストラが、

お互いを引き立て合う心温まる演奏。

 

 

 

☆4つ目の公演は、これぞフェス!!というプログラム。

・ボロディン:オペラ《イーゴリ公》から 「だったん人の踊り」(2台ピアノ版)

・ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」(2台ピアノ版)

 

ナタナエル・グーアン (ピアノ)

広瀬悦子 (ピアノ)

 

ピアノのソロ公演は、

コンサートの中でおそらく一番演奏されるスタイル。

次がピアノが伴奏をする独奏楽器とのデュオ

(バイオリンとピアノ、チェロとピアノ、フルートとピアノなど)。

意外にハードルが高いのが、ピアノ連弾と、2台ピアノの演奏で、

作曲されている曲目が少ない上、

演奏者や会場の事情により、コンサートとして企画される事は稀れ。

 

ストラヴィンスキーのバレエ「春の祭典」(2台ピアノ版)は、

CDとして持ってはいても、実演で聴くことが出来るなんて!

まさしくこのフェスならでは。

 

その上、もう一曲が大好きな ボロディンの「だったん人の踊り」。

 

下の演奏は、今回のピアニスト広瀬悦子と

シプリアン・カツァリスのデュオ版。

 

 

アンコールは、チャイコフスキーのくるみ割り人形から「金平糖の踊り」

 

 

 

☆最終公演は

ジャズピアニスト 山下洋輔 ソロ

「ラヴェルのボレロなど、テーマ「ORIGINES」にちなんだ楽曲をモチーフに贈る、唯一無二のスペシャル公演! 」

 

という事でしたが、三階席で聴くのはちょっと無理がありました。

ジャズは目の前で聴いた方が良いです。。。

 

 

以上、ラ・フォル・ジュルネ2024のコンサート評でした。

 

クラシックの入り口、きっかけとしては、非常に良い企画だと思います。

ちょっと聴いてみようかな?なんか面白そうだね?という感じで

参加していただけるとお値段以上の価値を見出してもらえると思います。

 

 

 

 

カノンデンタルクリニック
〒275-0011
千葉県習志野市大久保1-23-1 雷門ビル2F
TEL:047-403-3304
URL:https://www.canon-dc.jp/
Googleマップ:https://g.page/r/CTHgLGNJGZUXEAE

TEL
ネット予約